この前の105卓や無書簡卓をプレイしているうちに、駒や情報の取り扱い方をMTGに似た使い方で説明できるのではと考えた。ディプロマシーは外交/交渉という非常に定式化し難い行為を必要とする。だから、その取り組みを理解するために過去に自身の親しんだゲームと類似点を探すことは中々有意義なことではないかと考えた。そのような姿勢の例として、ディプロマシー上の事柄をMTGのカードタイプに対応させることで説明していきたい。

MTGとは?

MTGとはトレーディング・カードゲーム「マジックザギャザリング」のことである。プレイヤーが魔法使いであり、モンスターを召喚したり呪文を駆使して戦う設定のカードゲームである。知らない方は、詳しいことはウィキペディア等を参照して頂きたい。なお筆者はインベイジョンブロックの終わりくらいに引退している。

カードタイプ

MTGは呪文を用いて戦うという設定のため、1つの呪文が1つのカードと対応している。呪文には火炎攻撃、精神攻撃などの詠唱した瞬間のみ影響を及ぼすもの(使い捨ての呪文)と、モンスター召喚や不思議アイテム設置、防御結界の展開などの詠唱後に影響が持続するもの(場に残る呪文=パーマネント)の2通りに大別出来る。
また、呪文を用いるには魔力を消費しなければならない。通常、魔力は土地から湧出するエネルギーとして供給される。よって、MTGのカードはまず「土地」と「呪文」に分けられ、更に呪文は「使い捨ての呪文」と「パーマネント」に分けられる。使い捨ての呪文は「ソーサリー」と「インスタント」と分類し、パーマネントは「クリーチャー」、「アーティファクト」そして「エンチャント」と分類する。

カード 呪文 使い捨ての呪文 ソーサリー 例)火の玉など1
インスタント 火の玉など2
パーマネント クリーチャー モンスターと同義
アーティファクト 魔法アイテム
エンチャント 何らかの影響を与える結界
土地 魔力を出す

MTGの呪文/魔力には、5種類の色が設定されており、アーティファクト以外の呪文は色を持つ。呪文が必要とする魔力に色の制約があること、各色の呪文群に得意不得意があることがゲームシステムとしてMTGを面白くしている。
色の雰囲気上の役割として、5種の色はそれぞれの色とシンボルのイメージからなる哲学を表明している。大雑把に示すと下記の表の様になる。

シンボル 象徴的態度
太陽 正義・法・秩序・共同
思考・狡猾・知識・文明
髑髏 死・恐怖・堕落・邪悪
混沌・無秩序・衝動・憤怒
樹木 生命・自然・共同・大地

色の概念をディプロマシーに適用させるのは直観的に難しいと感じた。精一杯の適用としては、各プレイヤーのパーソナリティが、各色を様々な比率で集めたものであると捉える程度が妥当だろう。

カードタイプの適用

各呪文のカードタイプと、ディプロマシー上のプレイヤーの行為を対応させていく。筆者はディプロマシー初心者ゆえ、読まれる方の中にはディプロマシー上の行為で言及が望ましいものであるにもかかわらず、カードタイプの対応では言及しきれていない行為に気づくかもしれない。そうであれば是非補足としてコメント頂けると有難い。

パーマネント

パーマネントは、MTGにおいては戦場に設置して戦いに影響を及ぼすカードの総称である。ディプロマシーとの対応は陸軍・海軍駒の用法の種類で示そうと思う。

クリーチャー

MTGではモンスターのことをクリーチャーという。クリーチャーはアタックをすることで相手にダメージを与える。またアタックに参加していないクリーチャーは相手のアタックしてくるクリーチャーをブロックできる。軍駒のクリーチャー的用法は、ディプロマシー上では最も素直な考え方である、補給都市や要地をめぐる攻防に対応していると思う。
他の面から対応出来ることを探すと、MTGのクリーチャーの代表的な特殊能力に、「飛行」というものがある。飛行持ちのクリーチャーのアタックは、飛行持ちのクリーチャーでしかブロックできないというものだ。これは海域における海軍、内陸における陸軍の利かしに対応させるのが自然だろう。

アーティファクト

アーティファクトは、魔法の技術を用いた道具や機械のことである。アーティファクトはプレイヤー演ずる魔術師が開発したものではないので、魔術の思想を反映した色のつかない、無色の魔力(色拘束が無いということ)から展開可能である呪文だ。
対応する軍駒の使い方としては、無書簡卓における戦闘に使われていない軍駒のような使い方であろうか。筆者が想定しているのは例えばYorに駐屯し続けている英陸軍のようなものである。これは「隣国にGB上陸意欲を一定程度減少させる」という効果を発揮していると見てもよい。このように行軍の意図を明示せずとも効果を及ぼす運用をアーティファクト的用法と言うことにしたい。

エンチャント

エンチャントは、持続する魔法のことで、そのエンチャントによって戦場全体や個別のクリーチャーなどのパーマネントに影響を及ぼす種類の呪文である。筆者は、エンチャントはパーマネントの中で最も未経験者に概念を説明するのが難しい種類だと思う。結界や呪いの類と考えれば妥当である。
エンチャントはアーティファクトと似ている面が多い。両者の最も異なる特徴の一つとして、無色のアーティファクトに対し、エンチャントは各色の思想に基づいている、つまり色がついていることが挙げられる。色の概念をディプロマシープレイヤーの精神的傾向と対応させるならば、軍駒のエンチャント的用法は、その意図を書簡により明示させることで明確な意味づけを与える行軍だと思う。アーティファクト的用法の軍駒の意味付けは自明もしくは曖昧であるが、エンチャント的用法では明白な方向づけが書簡によりなされている。エンチャント的用法では6カ国にそれぞれ1つづつの解釈を明示することにより、1つの行軍・駒配置が6種類の効力を発揮することが理論上可能である。

使い捨ての呪文

パーマネントは自分の軍駒の用法に対応させた。使い捨ての呪文は書簡の運用方針で対応させていきたい。
ソーサリーとインスタントの違いを説明したい。MTGは野球のように攻撃ターンと守備ターンを交互に行う。攻撃ターンに使っていない残りの各種資産を守備ターンに運用して守備をするというイメージである。ソーサリーは攻撃ターンのみしか使えないが、インスタントは守備ターンにも使える。またインスタントは小回りの効く使い方ができる。これらの違いを踏まえてソーサリー、インスタントに対応する行為を説明していく。

ソーサリー

ソーサリーはMTGで言うならば、大掛かりな準備、儀式を必要とする呪文である。大掛かりゆえに効果が大きいものが多い。
対応させる書簡の運用としては、将来の盤面を予測して、その盤面下で最大のパフォーマンスを実現させるような外交だと思う。約束を守ることで信頼を積み上げていく種類の外交もソーサリーに分類されるだろう。長期的な展望のもと、それに沿った形で他国をコントロールする指向の外交である。主導権を握っていて、自分の目指す方向へ自身が無駄のない動きをしているため(その間他国は無駄な動きを伴っている可能性がある)、アドバンテージを積みやすい方針である。

インスタント

インスタントは相手攻撃ターンに干渉できたりと、ソーサリーと全く同じ効力ならば完全にソーサリーの上位互換となるカードタイプである。
ディプロマシーで対応させるならば、ソーサリー的用法と対置して、即時的な判断の変更に伴う書簡運用形態で例えるのがいいだろう。更新後に予想していた盤面と全般的にもしくは重要な部分で異なる場合、それまで想定していたシナリオを捨てて方向転換する必要があるかもしれない。また更新前に重要な情報が届いたりして迅速な判断をしなければならない時もある。そういうときは積み上げたアドバンテージを捨てて、他国の信頼をある程度犠牲にしてでも行軍を変えたり、驚かせる書簡を送ったりする決断が求められる。こういった書簡運用方針をインスタント的用法としておこう。

終わりに

ディプロマシーの外交は、呪文カードのルールテキストをオーダーメードで一つづつ作っていく作業と言えるかもしれないと思う。呪文のコストは魔力ではなく盤面を見て気づいた交渉材料と書簡作成の労力、各種状況での行為を遂行させる精神力である。そう言う意味ではディプロマシーは呪文を生成していくプロセスにリアリティを感じさせる点で燃えられるゲームである。